「精神疾患」と「精神障害」の違い
「精神疾患」と「精神障害」は、日常的にも医療・福祉の現場でもよく使われる言葉ですが、実はその意味や使われ方には微妙な違いがあります。どちらも精神の健康に関わる問題を指す用語でありながら、それぞれの背景やニュアンス、使用される場面には一定の使い分けが存在します。
「精神疾患」は、医学的な観点から捉えた用語で、具体的な診断名がつく病気としての性格が強い言葉です。たとえば、統合失調症、うつ病、不安障害などが「精神疾患」に該当します。診断基準に基づいて定義されることが多く、医療の現場では診断や治療の対象として扱われます。つまり、「精神疾患」は症状の分類や治療方針の決定といった、医学的プロセスと強く結びついた用語と言えるでしょう。
一方で「精神障害」は、より広い意味を持つ言葉です。医学的な病名にとどまらず、それによって生活上の困難が生じている状態を含みます。障害者福祉の分野では、支援の対象を明確にするための概念として用いられることが多く、社会的なサポートや制度の枠組みと結びついています。つまり、精神障害は「疾患による生活上の制限や困難」に注目した用語だと言えるでしょう。
このように、「精神疾患」が主に医学的な診断や治療の枠組みで語られるのに対し、「精神障害」は、社会生活への影響や支援の必要性を踏まえた広い視点で使われる点に違いがあります。両者は互いに重なる部分もありますが、それぞれの役割や文脈に応じて使い分けることが重要です。
それぞれの意味
「精神疾患」の意味
「精神疾患」とは、脳の働きや神経伝達物質のバランスの乱れなどによって生じる、思考、感情、行動に関連した医学的な病気を指します。これは、国際的な診断基準(たとえばDSM-5やICD-11)に基づいて分類される医学的な状態であり、病名として特定されることが特徴です。
精神疾患の定義に含まれるのは、以下のような特性です。
- 医療的な評価によって診断される病気であること
- 一定の症状や経過が診断基準に照らして認められること
- 個人の精神的・身体的機能に明確な変調が生じていること
このように、「精神疾患」は医学的枠組みの中で理解され、医師や専門職による診断と治療の対象となるものです。
「精神障害」の意味
「精神障害」は、精神疾患によってもたらされる社会的・生活的な困難や制約を含んだ、より広い概念です。単に病名があるというだけでなく、それによって日常生活に支障が出ているかどうかが重要な視点になります。
たとえば、診断名がついていなくても、精神的な状態が原因で学校や職場に通えない、対人関係を築けないといった状況が続く場合、それは「精神障害」として捉えられる可能性があります。また、福祉制度や障害者支援の場では、支援対象者を定義するうえでこの言葉がよく使われます。
- 社会生活や日常活動において制限が生じている状態を含む
- 福祉や支援の制度における対象者の分類に用いられる
- 医学的診断の有無にかかわらず、生活上の困難が重視される
このように、「精神障害」は医療面だけでなく、社会的背景や生活上の適応状況を考慮した言葉として、制度的・実務的な文脈で使われることが多くなっています。
「精神疾患」と「精神障害」の使い方・使用例
「精神疾患」の使用例
- 彼は長年、うつ病などの精神疾患と向き合っている。
- ストレスの多い生活が精神疾患のリスクを高めると言われている。
- 医師によって精神疾患と診断され、治療を開始した。
- 最近は精神疾患に対する偏見が少しずつ減ってきている。
- この病院では精神疾患の専門外来が設けられている。
「精神障害」の使用例
- 彼は精神障害者保健福祉手帳を持っている。
- 精神障害があっても安心して働ける職場づくりが求められている。
- この施設では精神障害を持つ方への支援を行っている。
- 法制度の中では精神障害も障害者支援の対象となっている。
- 学校現場でも精神障害のある生徒への理解が進められている。
「精神疾患」と「精神障害」に似た言葉
- メンタルヘルス 精神的な健康状態全般を指す言葉で、病気に限らず、ストレスへの対処、感情の安定、人間関係の良好さなど広い範囲を含みます。予防やセルフケアの文脈で使われることも多いです。
- 心の病 日常会話やマスメディアでよく使われる表現で、専門用語ではありません。うつ病や不安障害など、精神的な不調を柔らかく表現する際に使われます。
- 発達障害 生まれつきの脳の特性により、注意、対人関係、学習などに困難を抱える状態。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などが含まれます。精神障害とは別の分類とされることが一般的です。
- 知的障害 知的機能の発達が平均より著しく遅れている状態で、概ね18歳未満に発現します。日常生活や社会的適応において継続的な支援が必要となることがあります。
- 精神保健 社会全体で精神的な健康を守り、促進するための取り組みや制度、施策のこと。地域支援、予防、早期介入なども含まれ、行政や福祉の領域でよく使われます。