「前科」と「前歴」の違い
日常のニュースや会話の中で、「前科」と「前歴」という言葉を耳にすることがあります。どちらも過去の犯罪に関する用語であり、似たような意味に捉えられがちですが、実は法律的にも社会的にも異なる意味を持つ言葉です。この違いを正確に理解することは、法律に対する正しい認識を持ち、誤解や偏見を避けるうえで非常に重要です。
「前科」は、裁判において有罪判決を受けた経歴を指します。つまり、過去に刑事事件で有罪と判断され、刑が確定したことがある人が「前科あり」とされます。一方で「前歴」は、逮捕や書類送検など、捜査の対象となったものの、最終的に起訴されなかった場合や、有罪判決に至らなかった経緯を含みます。たとえば、警察に取り調べを受けたが不起訴になったケースや、嫌疑不十分で釈放された場合などがこれにあたります。
このように、「前科」は刑罰が科された事実を伴う一方で、「前歴」は捜査の対象になったという事実にとどまる点で大きな違いがあります。どちらも過去の行為を表すものではありますが、その法的な重みや社会的評価は異なります。理解を深めるためには、それぞれの定義や具体的な使用例を知ることが必要です。次章では、それぞれの意味をさらに詳しく見ていきます。
それぞれの意味
「前科」の意味
「前科」とは、刑事裁判で有罪の判決を受け、刑罰が確定した事実を指します。刑罰には懲役や禁錮、罰金、拘留などが含まれますが、どのような刑罰であっても、有罪が確定した時点で「前科がついた」と見なされます。
この定義において重要なのは、「判決が確定していること」と「有罪であること」です。起訴されただけでは前科にはなりませんし、裁判の途中である場合や無罪判決を受けた場合も同様です。前科は、正式に刑事責任を問われた結果として記録されるものであり、個人の法的な履歴に明確に刻まれるものです。
また、前科の記録は一定の期間を経た後も、捜査機関などでは参照可能な場合があります。これにより、再犯時に過去の経歴が考慮されることもあります。
「前歴」の意味
「前歴」とは、刑事事件に関連して捜査や取調べの対象となったことがある経歴を指します。有罪判決に至らなかった場合でも、逮捕や勾留、または書類送検された履歴がこれに該当します。つまり、刑が科されていなくても、「事件に関与したとされ、捜査が行われた」事実そのものが前歴とされます。
- 逮捕されたが、不起訴になった場合
- 起訴猶予とされた場合
- 嫌疑不十分などで不起訴処分になった場合
このようなケースでは、表面的には罪に問われていなくても、警察や検察の記録として前歴が残ることになります。ただし、前科と異なり、前歴は法律上の「処罰」を伴わないため、必ずしも社会的な不利益が発生するとは限りません。しかし、捜査履歴として内部的に保持される可能性があり、将来の捜査や処分に影響を与える場合があります。
「前科」と「前歴」の使い方・使用例
「前科」の使用例
- 彼には過去に窃盗の前科がある。
- 前科があると、就職活動で不利になることが多い。
- この事件の容疑者は、傷害の前科を持っていたことが判明した。
- 裁判所は前科の有無も考慮して量刑を決定した。
- 複数の前科がある場合、再犯のリスクが高いと見なされる。
「前歴」の使用例
- 彼は逮捕はされたが起訴されず、前歴だけが残った。
- 警察は、以前にも同様の前歴がある人物をマークしていた。
- 前歴があると、再び捜査対象になりやすいと言われている。
- 少年時代の前歴については、記録が厳重に管理されている。
- この事件では、前歴の有無が捜査の焦点となっている。
「前科」と「前歴」に似た言葉
- 犯罪歴:前科や前歴など、過去に犯罪に関与した事実全般を含む広い意味で用いられる非公式な言葉。法律上の明確な定義はないが、一般的に「過去に犯罪に関わった経歴」という意味で使われる。
- 逮捕歴:過去に一度でも逮捕されたことがあるという経歴を指す。起訴されたか否か、有罪になったか否かに関係なく、逮捕という事実自体に着目した表現。
- 書類送検:逮捕を伴わずに、警察などが事件に関する書類を検察へ送る手続き。書類送検されたからといって、必ず起訴されるとは限らない。
- 起訴猶予:検察が起訴に足る証拠があるにもかかわらず、被疑者の反省や情状などを考慮して起訴を見送る判断。法律的には有罪無罪の判断がされないまま終了する。
- 保護処分:主に少年事件に適用される措置で、刑罰ではなく教育的・更生的な目的で行われる。保護観察や児童自立支援施設送致などが含まれる。
- 執行猶予:有罪判決を受けたものの、刑の執行が一定期間猶予される制度。猶予期間中に再犯などがなければ、刑の執行は免除される。