「努める」と「務める」の違い
日本語には、読み方が同じでも意味や使い方が異なる言葉が数多く存在します。「努める」と「務める」もその一つであり、どちらも「つとめる」と読むものの、文脈によって使い分けが必要です。この二つの言葉の違いを理解することは、正確で伝わりやすい日本語を使ううえで非常に重要です。
「努める」は、主に自らの意思や努力に関わる場面で使われます。たとえば、目標に向かって努力したり、ある行動を継続的に意識して行うような場合に用いられる言葉です。気持ちや姿勢に重きを置いたニュアンスが含まれており、「~しようと努力する」「~になるよう励む」といった意図が読み取れます。
一方、「務める」は、ある役割や責任を果たす、もしくは特定の立場に就いて仕事をするという意味で使われます。たとえば、会社の代表を務めたり、司会を務めたりする場合にこの表現が用いられます。ここでは努力の有無よりも、「役割の遂行」や「職務の遂行」といった行動そのものに焦点が当てられているのが特徴です。
このように、「努める」と「務める」はどちらも「何かを行う」という広い意味では共通していますが、「意識的な努力を表すか」「役割を果たすことを表すか」という観点で明確に区別されます。文脈によって適切に使い分けることで、表現の正確さと説得力が増し、読み手にとっても内容が伝わりやすくなります。
それぞれの意味
「努める」の意味
「努める」は、心身の力を使ってある目的に向かう様子を表します。主観的な努力や意欲が強調されるのが特徴で、行為の成否に関係なく、「その行動に向けて力を注ぐ」という意思そのものに意味があります。
- 困難や課題に対して、自分の意志で努力すること
- 自ら進んで何かを実現しようとする姿勢を指す
- 精神的・内面的な働きかけを伴う動作や思考が含まれる
つまり「努める」は、結果よりも“どう取り組むか”という態度や意識が問われる言葉です。たとえば「健康に努める」という表現は、「健康であるために努力を重ねる」という過程への意識を含んでいます。
「務める」の意味
「務める」はある特定の役割や仕事を引き受け、それを果たすことを意味します。個人の感情や努力の度合いよりも、果たすべき責任や機能が焦点になります。社会的な立場や行動の“遂行”を示す場合に使われることが多い語です。
- 割り当てられた役目や任務に従って行動すること
- ある地位や役職に就いて、それを果たすこと
- 公式な機能や責務を遂行する意味合いを含む
たとえば「司会を務める」という表現では、司会という役割を引き受け、その進行をきちんと遂行するという事実的な行動が中心になります。ここには「努力する」という意味合いはあまり含まれていません。
「努める」と「務める」の使い方・使用例
「努める」の使用例
- 健康維持に努める
- 問題の早期解決に努める
- 円滑なコミュニケーションに努める
- 無駄を減らすよう努める
- 冷静な対応に努める
「務める」の使用例
- 司会を務める
- 会社の代表を務める
- 重要なポジションを務める
- 責任者としての役割を務める
- 長年、営業部長を務める
「努める」と「務める」に似た言葉
- 働く:労働すること、特定の場所で仕事をすることを意味します。一般的な職業活動全般を指し、「会社で働く」「アルバイトとして働く」などの形で使われます。
- 励む:物事に熱心に取り組むことを意味し、努力の継続や意欲を強調する言葉です。「勉強に励む」「練習に励む」など、自主的で前向きな取り組みを示します。
- 従事する:特定の仕事や活動に関わることを表します。やや硬い表現で、職業や専門的分野に携わる場合に使われることが多く、「医療業務に従事する」などの例があります。
- 任ずる:ある地位や役割に就けることを意味します。やや形式的で、公的な場面で用いられやすく、「部長に任ずる」といった使い方がされます。
- 担う:責任や役割、使命などを引き受けることを意味します。物理的なものよりも抽象的な責任感を示すことが多く、「社会の未来を担う若者たち」のような使われ方をします。